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IT21の会 第256回（令和2年[2020年]11月度）例会議事録

要旨：
　日時　2020年11月6日（金）18:30-20:30
　場所　オンライン開催(Zoom)
　申込　36名（講師を含む）

配付資料：
　IT21-2011-0  CPD参加表(アンケート回答により自動配布)
　IT21-2011-1a 講師プロフィール
　IT21-2011-1b 中部森林管理局の取組紹介～組織の取組と現場の課題に関する私見～（事前配布）

議事：
　18:30-18:40 事務連絡、資料確認、初参加の方の自己紹介
　18:40-20:10 メインテーマ講演
　20:10-20:25 質疑応答
　20:25-20:30 今後の予定

概要：
1.事務連絡、会長挨拶
　・代理で副会長が挨拶
　・配付資料およびZoom利用上の留意点案内
　・初参加の方の自己紹介　3名
　　～地元の森林組合で仕事している。ぜひ聴きたいと思っていた。
　　～土木専門。
　　～建設と森林。統括本部のイベントリストを見て参加したいと思っていた。

2．メインテーマ講演と質疑応答
　演題　中部森林管理局の取組紹介～組織の取組と現場の課題に関する私見～
　講師　渡辺万葉 氏 （林野庁 中部森林管理局　木曽森林管理署　森林整備官（森林育成担当） ）
　自己紹介　2016年入庁、青森県・長野県にて 立木公売、収穫調査、森林教室などを担当。大学は地理学専攻。

・はじめに
　組織の取組と、自身が課題と考えていることを紹介する。
　あくまでも個人としての発言。一緒に考えていただければ。

・(P2-3)組織について
　森林組合と林野庁は別。森林組合は事業体、林野庁は行政機関。
　間違える森林所有者も多い。

・(P4)林野庁の事業について
　林業事業体を育てるため、国有林野事業に”樹木採取権制度”が創設された。

・(P5)人数規模（定員内職員）について
　現在は、林野庁全体で約5,000人。
　森林管理局は7つ、中部森林管理局は約500人、うち本局に約100人。
　木曽森林管理署は約40人、うち本署に25人。これは特別人数が多い（木曽ヒノキの販売担当があるから）。
　（日本三大美林　木曽ヒノキ、秋田杉、青森ヒバ）
　森林管理署には、さらに出先の森林事務所がある。1～2名/事務所。
　地域によっては、署から担当する現場に行くまで時間がかかり、大変。

・(P6)中部森林管理局の沿革
　大政奉還後から続く、とても歴史の長い組織（それ以前は、藩営林等に遡る）。
　20年前に「森林管理局」に名称変更。

・(P7)主要事業
　中部森林管理局の取組3本柱（webページ掲載「令和2年度中部森林管理局の取組」参照）
　①公益的機能の一層の発揮
　・多様な森林（針広混交林等）への誘導
　・災害対策（災害時の調査、治山事業等）

　②林業の成長産業化への貢献
　林業はなかなか話題にならない産業
　世界的な取引もあり、木材価格が上がらない。よって、コスト削減が課題になっている。
　・D材販売の取り組み
　　D材：末木枝条（すえきしじょう、丸太以外の枝や葉、切れ端等）
　・ドローンやレーザースキャナなども試行的に活用
　・高齢級人工林材のブランド化
　　「木曽ヒノキ」は天然もの（人の手で植えていない）を指す。
　　人工林のヒノキは比較すると目が詰まっていない。
　　※土場（どば）：山から出した丸太を並べて保管する場所

　③「国民の森林」としての管理経営
　・国民参加の森林づくり
　※分収造林：国有林に地域住民や企業が木を植えて育て、あらかじめ決めた比率で販売収入を分ける
　・レクリエーションの森：国有林を地域の観光等に活用

・(P8-9)日本の森林は減っている／増えている？
　面積はほぼ変わっていない。国有林では、伐ったら植える。
　戦後、復興のため木材需要が急増。木材供給の強い要望を受けて天然林を伐り、成長の早い針葉樹（スギ、ヒノキ等）を植えた（人工林を拡大）。

・(P10-11)林業成長産業化≒低コスト化に向けて
　日本の高性能林業機械は、建設用の重機に、海外製のアタッチメントをつけているものが多い。
　ドローンやレーザーなどスマート林業の取り組みも推進している（林野庁webページ参照）。

・質疑応答
 Q1: 木曽ヒノキを伐採した後、食害対策のために周りをネットで囲んでいるか。
 A1: 皆伐している箇所は人工林。天然林は漸伐（一定の割合で残して伐る）し、落ちた種から芽が出て次の天然木曽ヒノキの山になることを目指している。
     木曽ではカモシカの被害が多い。忌避剤を使って防除している。昔は鉄の網で囲っていた。

 Q2: ドローンの飛行訓練は？
 A2: 購入先からの講習や、それを受講した職員から伝達講習を受けた職員が飛行させている。操縦と監視の2名以上体制。
     木曽は起伏が激しいので活用のための飛行条件が難しい。

 Q3: お困りごとは？
 A3: ITできるヒトが欲しい。

 Q4: 木の太さはどのように測るのか？
 A4: 林尺を用いて、傾斜の上側120cm（胸の高さ）で直径をはかる。

 Q5: 森林の材積が増えるとは、どのように測定している？
 A5: 地位（対象樹種にとっての成長しやすさ）や経過年数から木の太さを算出する。森林調査簿に記録されている。
     成長しやすい場所なのでこれくらい増えている、と推定している。
 Q6: 理論値？
 A6: 事業実行前には収穫調査で実際にはかり、本数と材積（立米）を算出するので、測定値になる。
     いつまでも手をかけない場所だと理論値のまま。

 Q7: 森林管理の単位は？
 A7: 管理の単位は国有林、林班、小班。
     5,000分の1基本図を参照。（例：小川入国有林79林班い小班）

 Q8: 松くい虫被害を最近聞かないのは対策がすすんでいるため？
 A8: 地域差がある。被害はだんだん北上している。
     ある程度被害がでると、その地域における被害は一段落する（新たに枯れる木＝生き残りの木がなくなるため）。
     木曽署管内は寒いのでまだ被害は無い（隣の南木曽支署管内まで来ている）。長野県では松本周辺で被害が深刻。
     被害を受けた木材を運ぶとさらに被害を拡大させるので、地域をまたぐ移動を制限している

 Q9: 松くい虫被害は温暖化とも関係？
 A9: 不明。媒介昆虫であるマツノマダラカミキリの生息範囲には影響ある。
    原因であるマツノザイセンチュウへの抵抗力のある苗木の開発・普及も進められている。

・(P12)森林の被害
　林業は伐って、植えて、育てて、の循環。
　しかし、植えたからといって順調に育つとは限らない。
　～獣害
　　激しい。特にニホンジカ。
　　木曽はカモシカが多い。「彼らはグルメ」（会場笑）
　　ツキノワグマは人命にも関わる。
　　被害の内容は、葉や根をかじられる、樹皮を剥がれる、掘り返される、など
　～病虫害
　　松くい虫：カミキリムシがセンチュウを媒介。
　　ナラ枯れ：キクイムシが菌を媒介。
　～気象害
　　寒風害、凍害など。十分に生長する前の段階で多い。

　～その他
　　山火事：春先が（秋も）とくに危険。防止パトロールに取り組んでいる。
　　盗伐：木材が高く売れた時代は特にあった

・(P13-14)森林被害などの現状
　ニホンジカ被害が深刻。食欲旺盛でよく食べる。植えた片端からやられてしまう。
　被害の影響は土砂流出にも波及する。

・(P15)ワナ
　仕掛けたら見回らなければいけない。これが重労働。
　長野ではクマは保護対象。錯誤捕獲を確認し、放獣しないといけない。
　通信機で捕獲を通知するシステムに取り組んでいる

・(P16-20)全体的な課題（個人的見解）
　科学的なデータ（根拠にできる数値）が乏しい
　①変数（条件）が多いので、鍵となるデータの取得・分析が難しい。地質、標高、斜面の向き、斜面の上か下か、などで生長が変わる。
　  同じように植栽しても順調に生長するものと競争に負けるものがある。
　②植えてから最終的な結果が出るまで時間がかかる。戦後植えたものが、今ようやく大きくなってきたところ。
　③暗数が多い。たとえば獣害について、毎年すべての山をくまなく見られるわけではないので、被害に気付かない、気付くのが遅れる、ということがある（マンパワー限られている）。

・安全面のリスク
　労働災害「他産業と比べてダントツ高い」。保険料も高い。
　けがは減ってきているが、そのわりに死亡数が減らない。悲しい課題。
　日本と急峻な地形が似ているとして、オーストリアと比較されることが多い。オーストリアは高性能林業機械（重機）の導入が進んでいる。
　小規模な事業体にとって投資負担が大きい。

・危険な作業地、危険な作業
　事業ごとに伐る・植える現場が変わるので、安全対策は装備品と行動がメイン。とくに伐倒作業が危険。
　チェーンソーのガイドラインが改正された。保護具着用義務　（チェーンソーが当たってもけがしない）。
　急斜面、足がハマる、ごつい保護具は歩行に支障がでるのでつけにくい。
　伐採後は歩行難易度が高い。
　（職員の装備例：ヘルメット、ハチ対策の網、手袋、エピペン、地下足袋・長靴）

・(P21)直線距離の近さ ≠ アクセスの良さ
　木が倒れると危険なため、伐倒時の近接作業は禁止。単独作業が多くなる。
　他社・他者の様子が見えない。ノウハウの共有がしづらい。
　携帯の電波が届かない。災害があった場合、救援連絡する人が電波の届く場所へたどり着くまでのタイムラグがある。
　衛星携帯もあるが、車まで戻らないといけないケースも。
　WALP（わな捕獲通知システム）
　お守り（ココヘリ）

・(P22)リモートセンシング技術等の活用における課題
　①ドローン操作等
　　風、鳥の攻撃、枝に引っかかる。→回収作業が難航。そのまま見つからないことも。
　　尾根で見えなくなるため、起伏の激しい場所で活用しづらい（目視外・通信不調になりやすい）。
　　バッテリー持続時間（特に冬）
　　セキュリティ不安（新聞報道）。ファントムを導入しているが新規購入できない。
　②測量・収穫調査
　　写真による場合、木の年齢が違う、など林相の違いがはっきりしている必要がある。
　　レーザーを使う方法は樹頂点のカウント技術が上がっている。しかし、太さは別途地上で計測が必要。
　　木の太さが重要。需要多いのは一定の範囲の太さで、細すぎても太すぎてもダメ。難しい。
　　多様な森林づくり≒針広混交林化。樹種の判別が大変になる。

　IT21の会の皆さんに、ぜひ見解を伺いたい。

・質疑応答

 Q10: 森林はどのような栄養分を得ているか。肥料や農薬はどうか。
 A10: 実験的なケースはあるが、基本的に植えた後に施肥はしない。
      土中の栄養よりも日照の確保が問題。
      カモシカ対策で忌避剤を使う。笹を処理するために除草剤も使うことがある。
      予防接種的な薬剤もある（樹幹注入）。一本一本作業するため大規模使用は難しいので、需要が伸びるかどうかは…。

 Q11: 地元は戦後に植えたスギが多い。ニホンジカが多い。ネットを張ってもきりが無い。忌避剤の効果はどうか、どのような対策をしているか。
 A11: ニホンジカ被害がすでに深刻なら、忌避剤で防げるレベルではない。
      捕獲による「攻め」と囲いによる「守り」の両面で対策を頑張っているところ。

 Q12: 一本ごとに守るのはコストがかかり困っている。周りを囲むしかない？
 A12: ネットで囲む場合、巡回とメンテナンス、小区画への分割（侵入リスクと侵入時の被害を軽減）が必要。イノシシによる穴などにも注意。
      捕獲との組み合わせも検討してはどうか。

 Q13: ココヘリとは、小型の発信器？
 A13: yes。行方不明になってから使う。

 Q14: 森林クラウド、森林GISをやっている。県の仕事。ここを使いやすくなったらもっと時短・改善できることはなにか。航路計画が立てられるドローン、作業道を設計できるしくみなど。
 A14: 国有林でもクラウドGISが欲しい。現在、スタンドアロンのGISしかない。
      職員の転勤が多いので、管轄する現場の情報把握が大変。スムーズに情報共有・蓄積できるしくみが欲しい。

 Q15: 他県のクラウドをぜひ見て欲しい。林業事業体が書き込むと市町村や県が見られる仕組みがある。
 A15: ぜひ見てみたい。

 Q16: LGwanやインターネットの帯域に不安はあるか。
 A16: 森林事務所（署の出先）は脆弱なケースがある。

 Q17: 移動基地局の利用は検討しているか。
 A17: no。事例もきいたことがない。（参加者より：運用コストが見合わないだろう）